和菓子のお教室をはじめさせて頂いて早や13年になります。
たくさんの美味しいお菓子、珍しいお菓子に出会いました。
そんなお菓子の思い出やエピソードを、少し… お話したいと思います。

 

◆ 2010年 10月  山みち 

私は「こなし」のお菓子が大好きです♪ 餡でもなく餅でもなく… あの、もっちり?ねっとり?した食感が好きなのです。

「 こなし」と「煉りきり」の違いが良く分からない!と仰る方がおられます。 確かにどちらも造形物に向く生地で、はっきりと何かの形を写すお菓子に用いられる事が多いです。 「こなし」と「煉りきり」は全く違う製法です。 「こなし」は、餡に何らかの粉を加えて混ぜ、それを蒸して蜜を加えながらもみ込んで仕上げます。 「煉りきり」は餡の水分を飛ばして出来た火取り餡に、求肥(お餅)を煉り込んで仕上げます。 仕上がりはどちらも粘土のようですが「こなし」は水を打ったように表面がしっとりしていて、「煉りきり」は適度に乾いています。

裏千家学園の入学試験の折、つまり学園で初めて頂いたお菓子が橘屋さんの「山みち」=こなし製でした。 懐紙に取ったお菓子を見て少々驚きました。 とても大きくて… 派手なピンク、黄色、黄緑色の皮をかぶり、表面が波打った黒い蒲鉾のようでした。 (笑) 当時は「山みち」という菓子を知らず、生意気にも「大きくて色もきつくて… 何だか品の良くないお菓子だなぁ〜」と思ったのです。 が… その作り物(お菓子は全て作り物ですが…笑)のようなお菓子を頂き、「美味しい!私の好きなお菓子(こなし)だぁ〜」と思わず笑みがこぼれました。 

「 山みち」 は御家元でのお呈茶の際には良く登場するお菓子です。 お味が良い事は勿論ですが、扱い易いお菓子なのだと思います。 出す側には型崩れも無く盛り付けも楽で汚れる事もないお菓子です。 出された側も非常に頂き易いという事が言えると思います。  また橘屋さんは、数年前にお店を辞められたと聞いていますが学園で一番多く頂いたのはこの橘屋さんのお菓子でした。

私は春ではなく秋に好んで「山みち」を作ります。  山々の紅葉を写すには持って来いの華やかで美しいお菓子です。 ゆとりのある時には中に栗餡を入れると尚のこと美味しくなります。 山の彩を変えれば… 四季を通じて作ることも出来ます。 作るのは手間ですが、「煉りきり」や「外郎」と共に色のグラデーションが楽しめるきれいで美味しいお菓子ですね。