和菓子のお教室をはじめさせて頂いて早や13年になります。
たくさんの美味しいお菓子、珍しいお菓子に出会いました。
そんなお菓子の思い出やエピソードを、少し… お話したいと思います。

 

◆ 2010年 1月  酒蒸しまんじゅう 

昨年の1月にも「えくぼ薯蕷」…つまりは薯蕷饅頭について書きましたが、やはり、この季節は「お饅頭」です。 ホカホカ… 蒸したての 温かさは寒い季節の何よりのご馳走です! 

「酒まんじゅう」と聞くと、温泉地や神社仏閣の参道などで良い香りを放ちながら湯気を上げて売られているお土産を想像される方も多いのではないでしょうか? ところが、こうした庶民的な冬のお菓子 が茶の湯の世界にも登場するのです。 この時期に行われる夜咄しの茶事などでは大層喜ばれます。 去年も同じことを書きましたが、茶室には電灯が無いため「白いお菓子」が 求められる事が多く、尚且つ寒い季節のお茶事において熱々のお菓子は亭主の心入れの“ご馳走”です。  茶室室に漂う「酒粕」の香りだけで、身体が温まってくるようにさえ感じます。

余談ですが、御家元の初釜(薄茶席)で出される虎屋さんの「織部饅頭」も程良く温められています。 熱すぎず温過ぎず… ベタつかず… あれだけの数のお饅頭をどのようにして温めておられるのか? 一度、お水屋を覗かせて欲しいものだと何時も思います。

図々しい話ですが、どんな名店のものよりも自宅で作る「酒まんじゅう」が一番美味しいと思っています。(笑) 香りがまったく違います。 そして、そのお味の決め手はなんと言っても「酒粕」ですね。 先述の香り、甘み、色艶… 何をおいても作りたての蒸したて!に敵うものはないと思います。 昨年末、生徒さんから「酒饅頭を作ったら、結構美味しかったので…」と頂いた「酒粕」もとっても美味でした! 「酒粕」は「粕汁」にするよりも「酒蒸しまんじゅう」にする方がそのお味が良く分かるように思います。(笑) 例えば虎屋さんのような高級な「酒饅」は一体どちらの「酒粕」をお使いなのかと聞いてみたいです。 

そもそも「饅頭」は鎌倉時代に点心として伝わったもので、当然、中身は餡ではなく調理した野菜などでした。 砂糖が流通するようになった江戸時代の中ごろから今のような「菓子」に変化したとされています。 「酒饅頭」「薯蕷饅頭」「蕎麦饅頭」「利久饅頭」「栗饅頭」などのように、今日では一般的に餡を包んだお菓子が「○○饅頭」と呼ばれています。 が、その外の皮のバリエーションは数え切れません。 先人たちの知恵と工夫にはいつもながら… ただただ感心するばかりです。