和菓子のお教室をはじめさせて頂いて早や13年になります。
たくさんの美味しいお菓子、珍しいお菓子に出会いました。
そんなお菓子の思い出やエピソードを、少し… お話したいと思います。

 

◆ 2009年 7月  水羊羹 

夏を代表する和菓子はなんと言っても「水羊羹」ですね。 いかにも涼しげな「錦玉羹」や‘ツルン’とした食感の「わらび餅」「葛まんじゅう」などと共に、暑い夏には、冷たくして美味しいお菓子、口当たりの滑らかなお菓子が求められる所以だと思います。 教室でもリクエストが多く人気のお菓子です。 教室では小豆の漉し餡のものを基本に、抹茶の水羊羹、山桃餡、桜餡でも作ります。

       

「水羊羹」(練り羊羹も)は、“茶席”に好まれるお菓子ではありません。 風情が感じられないからです。 登場するとすれば、籠に盛られた「竹流し」くらいでしょうか…。 竹や笹の葉の香りや色、その清々しさが喜ばれます。 が、逆に茶席においては竹の器や笹の葉が客人にはゴミになるとの批判もあります。(苦笑) 〜お茶席では客人の迷惑になるものは出しません。 なのでお料理も余分な装飾を嫌います。 「竹の筒や笹の葉は、籠の中に残して(捨てて)行って下さい」と伝えても… 素直に言う事を聞きません。(苦笑) 席主にご迷惑!と逆に相手を思いやり律儀にゴミを持ち帰るのが茶人というものなのです。 ある意味… 厄介ですね!(笑)  

よく生徒さんに「先生のお好きな和菓子は何ですか?」と尋ねられます。 色々あってお返事に困るのですが、私の一番好きな和菓子は「虎屋さんの夜の梅」です。(笑) あのねっとりとした深みのある味、重量感、お値段も… 真似が出来ません! 子供の頃には何故、大人たちが虎屋さんの羊羹を珍重するのか? さっぱり解らずにいました。 この歳になってようやくその値打が分かるようになりました。 「水羊羹」は自分で作るものが一番好きです。(笑) 妹などは私が作る「水羊羹」しか食べません!(大笑) 彼女は生意気にもずっと昔から、戴き物などの詰め合わせにある缶詰や真空容器の「水羊羹」を口にしない子供でした。 水っぽい「水羊羹」が嫌いなのかと思っていたら、缶や容器の臭いが嫌だったのだそうです。 確かに出来たての「水羊羹」は小豆の香りが良く、口触りが滑らかで喉ごしもとても良いものです。 

それにしても「羊の羹(あつもの)」が何故、お菓子の名称として残ったのかが不思議です。 中国から伝わった「羊羹(羊の肉を使った汁物)」という高級料理を真似て、肉食を禁じられていた禅僧たちが小豆を利用して作った蒸し物が、そのまま「羊羹」として禅寺から伝えられ広まった、と言われています。 それが何時、甘いお菓子に変じたのかが不思議です。 虎屋さんの資料によると江戸の中期には既に断面に季節の図柄がデザインされた「羊羹」の菓子絵図が残っているそうです。 今のような「煉り羊羹」が登場するのはさらにその後、江戸時代後期のことだそうですよ。 「水羊羹」の歴史は浅い、浅い訳ですね!