和菓子のお教室をはじめさせて頂いて早や13年になります。
たくさんの美味しいお菓子、珍しいお菓子に出会いました。
そんなお菓子の思い出やエピソードを、少し… お話したいと思います。

 

◆ 2009年 6月  水ぼたん 

6月の代表菓子に「水ぼたん」があります。 紅餡を葛皮で包み茶巾絞りに形をととのえたた「葛まんじゅう」です。 葛の皮から透けて見える紅餡が何とも可愛い… 優しいイメージのお菓子ですね。 

和菓子の“銘”には、時々「誰がどういう発想でこのお菓子を作り、この“銘”を付けたのだろう…」と驚かされることがあります。 この「水ぼたん」もそうです。 実際に「水ぼたん」という花は存在しませんし、「花の王」とも呼ばれ豪華絢爛なイメージの牡丹の花を、言ってみれば単なる「葛まんじゅう」に仕立てた「水ぼたん」とは… 一体誰の発案なのでしょうか。 

花びらが幾重にも重なって大きく咲き誇る牡丹の花からは想像できない、シンプルで可憐な印象のお菓子です。 表しているのは中の紅餡が牡丹の紅を象徴していることぐらいです。 開けばさぞかし美しいのだろうな〜とみずみずしい蕾を表現したものでしょうか、あるいは牡丹の花を水に写せば〜と水中花を表現したものでしょうか・・・。 いずれにしても“石橋(しゃっきょう)”にみられる中国趣味の咲き誇った派手な牡丹ではなく、葛のベールに包まれた紅色が何処か楚々として可憐に見えるこの和菓子に、日本人の奥ゆかしさと創造性の豊かさを感じます。

私などは二番煎じで中の餡を緑や紫、水色などに換え、それぞれ「緑陰」「朝露」「水面」などと“銘”を付けて楽しんでいます。 葛の菓子は我々素人には扱いにくく難しいお菓子ですが、出来たて、練りたての葛ほど美味しいものはないと思います。 「白いダイヤモンド」とも呼ばれるように和菓子の材料の中ではかなり高価なものですが、その工程を知れば高い理由も納得できます。 あの野草の根にこんな素晴らしい澱粉を発見し精製する技術を高めた先人の知恵には、いつもながら感謝です。