和菓子のお教室をはじめさせて頂いて早や12年になります。

たくさんの美味しいお菓子、珍しいお菓子に出会いました。

そんなお菓子の思い出やエピソードを、少し… お話したいと思います。

 

◆ 2009年 1月  えくぼ薯蕷 

「 薯蕷饅頭」が高級なお菓子と知ったのは、ずいぶん大きくなってからのことでした。 子供のころ「上用まんじゅう」というのは、入学式や卒業式の紅白饅頭、法事で配られる白や薄緑のお饅頭の事でしたから…。 いわゆる「小麦粉饅頭」を「薯蕷饅頭」と思いこんでいた訳です。(苦笑)

「薯蕷」とは先月も登場した「山の芋」のことです。和菓子には「山の芋」の存在は欠かせませんね。 偉大なる力を持つ「山の芋」を褒めてあげたいし(笑)、あの真っ黒い「山の芋」を様々なお菓子に取り入れた先人達 を心から尊敬します。  先月お話したように餡にする事は誰しも思いつく事でしょうが、「薯蕷」や「かるかん」「薄皮饅頭」などのようにすり卸してから砂糖と米粉と混ぜ、蒸してお菓子にするという知恵と工夫は感動もの!です。 

「薯蕷」を頂く季節としては、やはり「山の芋」のある時期になりますね。 私は秋の「栗薯蕷」にはじまって、「織部薯蕷」「蕎麦薯蕷」〜初夏(5月くらいまで)の「木の芽薯蕷」で終わる事にしています。 今の季節の極寒期には熱々、蒸したてのお菓子が好まれます。 御家元の初釜でも薄茶席では虎屋さんの熱々の「織部饅」が出されます。 虎屋さんご自慢の白小豆の紅餡を使ったもので、御家元の特注品だそうです。 また、夜咄のお茶事でも温めたお菓子をお出しします。 と、同時に白っぽいお菓子を使う事が一般的です。 茶室には電灯が無いためよく見えるように白い菓子を用いるのです。 必然的に「薯蕷」や「酒蒸し」になることが多いですね。

1月から2月にかけて作るのは「えくぼ薯蕷」です。 真っ白い薯蕷皮に中はほんのり紅餡で、紅白に仕立てる初春らしい… 立春らしい… 大好きなお菓子の一つです。 頂きに窪みを作り、こなしや練りきりの小さな紅色の玉を飾ります。 この小さな丸ぽっちが何とも愛らしいですよね。 そして、この窪みがえくぼを表現しているのですが、ただ赤い点をつけただけのものもあります。 元々中国では白い饅頭のてっぺんに赤い点をつけるのは魔除けの意味だったらしいです。 魔除けは笑顔へと変化したのです。 

《笑う門には福来たる》 どうぞ皆様にとって笑顔の絶えない素敵な一年でありますように。。。