和菓子のお教室をはじめさせて頂いて早や12年になります。
たくさんの美味しいお菓子、珍しいお菓子に出会いました。
そんなお菓子の思い出やエピソードを、少し… お話したいと思います。

 

◆ 2008年 12月  クリスマスツリーのきんとん 

「きんとん」は茶席のお菓子の中で、茶人に最も好まれる主菓子です。 「きんとん」とは、餡玉に餡のそぼろをくっつけただけのお菓子です。 餡 on 餡… 単一の組み合わせになり、ただ餡の塊を食べているみたい 。 ただ甘いだけで好きになれない。 というのがよく聞くお声です。(笑) 何を隠そう… 私もその一人!でした。 ただ甘いだけの単調な風味が好きではありませんでした。

「きんとん」を好きになったのは京都(裏千家学園)に行ってからです。 京都で頂く「きんとん」は小豆の風味がよくみずみずしくて、甘さもほど良く、柔らかくて、およそ今まで食していた「きんとん」とは異なりました。 特に「山の芋」の入った「きんとん」の美味しさは格別でした。 

私も教室で行う「きんとん」や「茶巾しぼり」など、ただ“餡だけ”で頂くお菓子に、必ずこの「山の芋」で作った餡を加える事にしています。 「山の芋」を加えることによって、“豆&芋”でお味が複雑になり風味が増します。 “適度な粘り”が出て餡が扱い易くなります。 そして最大の理由は“色”かも知れません。 白餡の白よりも山の芋で作った餡の方がはるかに白いのです。 ベースの色が白いと発色が良く、どの色も鮮やかに美しく映える色に上がります。 《京都のお菓子の色がきれい》とよく言われるのは、もちろん色使いの良さもありますが、この山の芋のお蔭で元々の発色が良いのではないでしょうか。

「きんとん」が茶人に好まれる理由は、イマジネーションのお菓子だからです。 色や形、大きさで表現する想像力の世界のお菓子だからです。 お茶ではそのものズバリを好みません。 見て「何」と分かるお菓子はつまらないのです。 そのお菓子を見て「ご銘は?」と尋ねたくなるような、ナゾナゾのような物の方が会話がはずみ楽しいものなのです。 茶の湯においてお菓子はその日の趣向(テーマ)を表現する、演出の一つですから…。 

写真のような「オレンジのきんとん」を出されたら“銘”は何だと思われますか? 「嵐山」を思い浮かべる人もいれは「 錦秋」と名付ける人もおられるでしょう。 お茶をなさっておられる方なら「梢の錦」という銘が出てくるかも知れませんね。 これが紅葉の葉を模った練りきりのお菓子であれば、ほとんどの人が「ああ、紅葉」と思い、赤い紅葉の葉っぱを想像してしまいます。 ここが「きんとん」の楽しみであり面白さです。 

そんな中で見てすぐ「クリスマスツリー」と分かってしまう「きんとん」があります。 最初にお作りになられたのは末富さんですが、今では地方のお菓子屋さんも真似をなさっておられますし、私もチャッカリこうして真似て作っています。 この感性は本当に素晴らしいと思います。 このツリーの他にも見て「何」と分かる「きんとん」(例えば菜種きんとん、紫陽花きんとん、早苗きんとん等)もたくさんありますが、 色合いやそぼろ目の大きさ、トッピングで無限に広がる「きんとん」の魅力は尽きません。