和菓子のお教室をはじめさせて頂いて早や12年になります。
たくさんの美味しいお菓子、珍しいお菓子に出会いました。
そんなお菓子の思い出やエピソードを、少し… お話したいと思います。

 

◆ 2008年 11月  亥の子餅とぜんざい 

11月は炉開き、口切りなど「茶人の正月」と呼ばれる特別な月です。 

本来、炉開きは旧暦10月の最初の亥の日(例年、10月の30日前後)に行うものです。 茶家だけではなく、一般に囲炉裏や炬燵にも亥の日に火を入れる習慣があります。 亥は勢いが良く… 寒い冬中、火の勢いを絶やさぬように。 亥は子だくさんなので… 子孫繁栄につながる。 と、されています。 旧暦10月の初めの亥の日に餅をついて配り、それを亥の刻に食して無病息災のおまじないをするという、中国の古い風習が「亥の日」に炉を開く起源なのだそうです。 

裏千家での炉開きのお菓子は「ぜんざい」 です。 「ぜんざい」といっても甘味処で頂くようなサラサラしたものではありません。 黒文字と赤杉の箸で「菓子」として頂ける程度の固さのものです。 う〜ん… 餡にまぶしたお餅ってところでしょうか…。 (笑) で、黒文字はお茶事と同様に持ち帰り、貴重な赤杉の利休箸はなんと半分に折って「ご馳走さま」の印の如く、器に残すのです。

炉開きのお菓子が「ぜんざい」である理由は、餅にかぶった小豆の姿が亥の子供(ウリ坊)の背中に似ているから…。 御玄猪(おげんちょ)のお下がりのお餅を「ぜんざい」にした風習から…。 などと言われています。 また「ぜんざい」の語源は「善哉(よきかな)」という褒め言葉、あるいは神無月(10月)に神の集まる出雲で振る舞われる「神在(じんざい)餅」が訛って伝わったとか…。

炉開きや口切り、一般的な11月の茶会では「亥の子餅」が出されることも多いです。 先述の中国の風習が日本に伝わり、宮中では旧暦10月の上亥の日に猪子形に作った餅を供える儀式(御玄猪)が行われた。 これが次第に民間に広まって「亥の子餅」として茶席の菓子にもなったそうです。  

「亥の子餅」は「ぜんざい」と同じようにポコポコと少し小豆が浮き出て見えるような白いお餅です。 が、私は求肥の生地にシナモンを混ぜ、胡麻を用いて「猪子形」を表現しています。