和菓子のお教室をはじめさせて頂いて早や12年になります。
たくさんの美味しいお菓子、珍しいお菓子に出会いました。
そんなお菓子の思い出やエピソードを、少し… お話したいと思います。

 

◆ 2008年 9月  着せ綿 

お茶をなさっておられる方にはお馴染みの「着せ綿」ですが、一般の方々は聞きなれない言葉に「キセワタ?」と首を傾げられます。 「着せ綿」は重陽の節句にちなむお菓子です。 一般的には10月(旧暦の9月9日)のお菓子とされる事が多いようですが、私は9月〜10月のお菓子として作る事にしています。 

お節句が5回あることはご存知の事と思います。 1月7日、3月3日、5月5日、7月7日、そして9月9日です。 上巳の節句(雛祭り)や端午の節句、七夕はよく知られていますね。 9月9日は陽の数(奇数)の最大数である「9」が重なることから重陽の節句と言われ、菊の節句とも呼ばれます。 

「着せ綿」はこの重陽の前夜に菊の花の上に綿を置き、それが菊の香りと共に夜露、朝露を含みます。 この綿の事を「着せ綿」と呼び、重陽にその綿で顔を拭い不老長寿を願ったとされています。 宮廷では菊酒が振る舞われ宴が催されて、これを祝ったそうです。

「着せ綿」というお菓子は、“練りきり”や“こなし”などの練り物で菊花を象り、綿に仕立てた細かい白いそぼろをその上に飾る姿が多いです。 菊花はショッキングピンクに近いかなり派手な紅色を見ることが多く、紅白に作るイメージがありましたが、最近ではカラフルなパステル調のものも見かけます。 

個人的には菊はあまり好きな花ではありませんが、和菓子の世界では菊をモチーフにしたお菓子はたくさんあります。 いずれも、その姿形や付けられた銘に、先人達の観察力、表現力の素晴らしさを感じます。 「着せ綿」の不老長寿の伝説を和菓子に取り込んだのは一体何処の誰なのか… 中国の故事や伝説、宮中の行事やしきたりを上手く和菓子に織り込んでいった、知恵と工夫にただ只敬服するばかりです。