和菓子のお教室をはじめさせて頂いて早や12年になります。
たくさんの美味しいお菓子、珍しいお菓子に出会いました。
そんなお菓子の思い出やエピソードを、少し… お話したいと思います。

 

◆ 2008年 10月  豆大福 

東京教室の今年の秋のお菓子は「豆大福」と「栗蒸し羊羹」でした。 教室では初めてご参加下さった皆様に簡単なアンケートをお願いしており、その項目に《好きな和菓子》と《作ってみたい和菓子》というのがあります。 東京では「豆大福」は、その両方に上位に入っています。 が… 一方の神戸ではどちらにもほとんど登場しません。 

4月の桜餅の折にも関東と関西の違いに触れて書きました。 また日記のコーナーにも折にふれ、西と東の違いの面白さについて書いてきましたが、この「豆大福」もその違いを著しく表すお菓子の一つです。 失礼ながら…「食べモノ」に関して言うと、御所や茶道の家元があり和菓子の文化が見事に開花した京都をひかえ、全国の物品が集まった商都、大阪を有する「上方」の方が、将軍家のあった「お江戸」よりも豊かであったのだと感じます。 (もちろん現在は、世界中の美味しいもの、珍しいものが東京に一極集中していますが)

「 豆大福」は 関西では和菓子の範疇には無く“おやつ”に属するのだと思います。 関西でいう和菓子は、いわゆる“上生菓子”を指し、客人を迎える折のおもてなしの甘いものを和菓子と呼び、 対する関東では江戸の文化である茶 店で出される“団子”や“餅”を和菓子と捉えているように思います。 なので今回の「豆大福」もそうですが、東京では今でも名物の“団子”や“餅”だけで成り立っているお菓子屋さんがたくさんあります。 これも面白い傾向ですね。

教室でこの時期に「豆大福」 をおこなうのは、ちょうど9月の終わりごろから「赤えんどう」の新豆が入るからです。 この豆の歯触りの良い硬さと塩の加減が決め手になるように思います。 また「大福」というお菓子は本来はもち米から作る本当の「餅」で仕立てます。 が、教室ではそれは困難です。 そこで餅粉や白玉粉など、つまりもち米を原料とする粉から作る事になります。 当然、仕上がりは少し柔らかく上品な口当たりとなってしまいます。 

そして豆は本来この餅の中に散りばめられ、餡が包まれるものなのですが…  粉から作った餅皮では粘りやコシが弱く、皮を破って豆が飛び出して来てしまいます。 苦肉の策で、餡に豆をトッピングし餅皮で包んで仕上げます。 つまり「豆大福風の求肥」ですね。。。 (苦笑) 生徒さんたちには「皆さんが普段お召し上がりの「豆大福」とは別物と考えて下さい」と、苦しい言い訳です。

私が和菓子の勉強を始めたのは茶席のお菓子を作る為でした。 教室で教えるとなるとそうした「京菓子」ばかりという訳には行かず、いわゆる庶民のおやつとしての和菓子作りの世界が広がりました。 「豆大福」は、ある意味東京の生徒さんに学んだお菓子と言えると思います。 さらに東京で教室をさせて頂くようになってからは、江戸情緒漂う和菓子に心惹かれて います。 和菓子の世界も実に奥が深いとしみじみ感じています。