和菓子のお教室をはじめさせて頂いて早や12年になります。
たくさんの美味しいお菓子、珍しいお菓子に出会いました。
そんなお菓子の思い出やエピソードを、少し… お話したいと思います。

 

◆ 2008年 8月  西湖 

今、このホームページの表紙に使っているお菓子は《蓮根餅》です。 ご存知、「紫野 和久傳」さんの《西湖》を真似て作ったものです。 今や東京でも入手可能な銘菓で、このお菓子のファンは多い事と思います。 元々はお料理の締めくくりに出されれいたデザート菓子ですね。 

私が初めて頂いたのはいつ頃だったでしょう。。。 京都の友人が「和久傳さんに 凄く美味しいデザートのお菓子があって、予約したらそれだけを作って下さるので、今、京都ではおもたせのお菓子として流行っているのよ」という情報をくれ、「お願いだから是非一度ゲットして!」と、頼んで頼んで入手してもらい、やっと1本だけを分けてもらった思い出のあるお菓子です。

和菓子には行事のお菓子、門前のお菓子、茶席のお菓子、デザートのお菓子など、様々な分野での発展がみられます。 が、当然のことながら、何でも最初に目をつけ最初に作り出した人は本当に偉いなぁ〜と思います。 《蓮根餅》は蓮根の澱粉を蕨餅などと同様に、砂糖と水で練り上げた単純なお菓子です。 もちろん澱粉の質そのものにも差はあります。 が、その上に砂糖に和三盆の糖密を用い、きな粉ではなく笹の葉で大事に包んで清々しく仕上げたところが特別な人気になったのではないか… と思います。

実は 私、この《西湖》を知るずっと以前に「蓮根の澱粉」に出会っているんです。 学園に在学中か卒業後すぐの事、和菓子はただ食べるだけ!の頃だったと思います。 あるお料理屋さんで頂いたお椀です。  車海老と冬瓜の上に何やらトロンとした丸くて薄い透明の物体がかぶさっていました。 海老の赤と冬瓜の緑が透けて見え、とても涼しげな奇麗なお椀でした。 葛だと思って食し、すぐにそうではないと分かりました。 「これ 、何ですか?」とお聞きしたら「蓮粉を練ったものです」と仰られ、「はすこ・・・?」「ああ、蓮根の澱粉です。葛や蕨と同じです。」と言われ「ふ〜ん、そんな粉があるんやねぇ〜」と、はじめての食材に感激して何も考えずにそのお椀を美味しく頂いたのです。  

《西湖》が一世を風靡した時、「あの時、私達が「ふ〜ん」ではく、蓮粉をお菓子にすることを思いついていたらねぇ。。。 私達、ひと財産築けたのにねぇ。。。」 と、一緒に食事をした友達と大笑いしました。 

今では色んなお菓子屋さんが、(この私でさえも)この蓮根の澱粉を使った《蓮根餅》を作っておられます。 が、最初にこのブームを巻き起こした「紫野 和久傳」さんの厨房は素晴らしいと思います。 《西湖》を目にし口にするたびに、お稽古の為に茶席に向くお菓子を手に入れたくて…、京都のお菓子を真似る事にはじまった自分の和菓子作りを考えさせられます。 発想の転換や表現の豊かさを問いかけてくれる… 私には、苦くて美味しいお菓子です。