和菓子のお教室をはじめさせて頂いて早や12年になります。
たくさんの美味しいお菓子、珍しいお菓子に出会いました。
そんなお菓子の思い出やエピソードを、少し… お話したいと思います。

 

◆ 2008年 7月  水藻(みなも)の花 

裏千家学園に行ってから知ったお菓子屋さんに「生風庵」があります。 残念ながら数年前から休業しておられる。。。と思います。 あるいはお辞めになられた。。。と聞いています。 「雪餅」はあまりにも有名で、私もかれこれ30年ほど前、初めてこの「雪餅」を頂いた時には「世の中に、こんな美味しいお菓子があるなんて!」と、とても感動しました。

その生風庵さんの「蕨餅」と「水藻の花」という葛製のお菓子が、また、夏の美味でした。

この季節になると『生風庵さんの「水藻の花」が食べた〜い。』と、思い出します。 青豌豆の餡を葛皮でたたむように包んだお菓子で、豌豆の豆の香りが夏らしく、ほのかな緑色がまさに水藻のようでした。 葛皮はぽってりとして弾力があり、丸でも四角でもなく三角形にたたまれたその形が、とても不思議なお菓子でした。 もしも普通の葛まんじゅうのような“つるり”と丸く包んだものや水牡丹のような“茶巾絞り”の形状であれば、きっとこれほど印象に残るお菓子ではなかったかも知れません。

実は… この「水藻の花」を真似ようと何度も挑戦してみたのですが、とにかく葛皮があのような厚みならないのです。 で、きっと葛の生地がゆる過ぎたのだと今度は固めに仕上げると、弾力があり過ぎるし形が思うような三角形には広がりません。 当たり前の事なのですが、修練を積んだ職人さんの技に素人は太刀打ちできない!と、頭を打たれる瞬間です。 

葛はお菓子の中でも素人が扱うには一番難しい生地です。 余熱でも火が入ってしまい、逆に温度が少し下がっても直ぐに固まってきてしまいます。 練り上げた時が一番美味しいし、時間の経過と共に生地が硬くなり透明感が悪くなってきます。

私は日時を決めて、ものを注文する(取りに行く)のが苦手です。 なので長らく「生風庵」さんのお菓子を頂いていなかったのですが、気がつけばお店は休業となっていました。 確かご当主は2代目とお聞きしていましたが、後継者に恵まれなかったのは残念でなりません。 「雪餅」も「水藻の花」も今や憧れにして幻の銘菓です。