和菓子のお教室をはじめさせて頂いて早や12年になります。
たくさんの美味しいお菓子、珍しいお菓子に出会いました。
そんなお菓子の思い出やエピソードを、少し… お話したいと思います。

 

◆ 2008年 6月  夏越しの祓いと水無月 

6月の月の異名を菓子銘にしている行事菓子が、ご存知「水無月」です。

5月の末ごろから、店頭に並び始めますが本来は6月30日に頂くお菓子です。 ちょうど一年の真ん中、半分に当たるこの日には、各地の神社で「夏越しの祓い」が行われます。 一年の上半期の無事に感謝し邪気を払い、下半期の無病息災を祈願して神社に参り、暑い夏を元気に越せるようにと願う神事です。

そしてこの日に暑気払いのまじない?として「氷」に見立てて頂くのがこの「水無月」です。 三角形は「氷」を象り、小豆は邪気払いの意味を持ちます。 これから迎える暑い夏を乗り切れるようにと「氷」だと思って感謝して頂くのです。 冷蔵庫を開ければ勝手に「氷」が出来ている現代人には考えられない発想ですが、「氷」が極一部の限られた特権階級のものであり、「氷」を口にすることはおろか目にすることも無かった時代の「氷」への憧れから生まれたお菓子ですね。 

本来は新粉で作られますが、外郎製や小麦粉仕立て、あるいは葛製のものもあります。 また、ここ数年の流行から生地に抹茶や黒糖を混ぜた色のついた「水無月」をたくさん見かけます。 もちろん”お商売”ですから“より売れるもの”を作るのは当然の事と理解は出来ますが、「水無月」本来の「氷」を表現したお菓子という点からすると、やはり色は「白」以外は作って頂きたくないなぁ〜と、個人的に思います。  

また、「水無月」の売り出しはせめて6月に入る頃からにして頂ければ…と思います。 東京のデパ地下でゴールデンウィーク前から「水無月」の貼り紙を見て本当に驚きました。 それもかなりの有名店がです! 和菓子は季節を写すものですが、特にこうして「この日には何を食べる」といった、しきたりや風習を守る“行事菓子”がたくさんあります。 本来こうした“しきたり”をきちんと伝えていかなければならない菓子店が、商業ベースに乗って自らこれを崩してしまわれるのは如何なものかと、残念に思います。 

「水無月」はご家庭でも案外簡単に作ることが出来るお菓子です。 「夏越しの祓い」に家族で近所の神社に出向き、茅の輪をくぐり、一年の半分が無事に過ごせた事に感謝をし、残り半分の無事を願う。 自宅に戻って手作りの「水無月」を家族で頂く… そうした穏やかで優しい風習を守り伝える若いお母さん達が増えて下さる事を願います。