和菓子のお教室をはじめさせて頂いて早や12年になります。
たくさんの美味しいお菓子、珍しいお菓子に出会いました。
そんなお菓子の思い出やエピソードを、少し… お話したいと思います。

 

◆ 2008年 4月  道明寺と長命寺 

東京で和菓子のお教室をさせて頂くようになってから、関西と関東の和菓子の文化の違いを強く感じています。 ところ変われば品変わる!とは言うものの、受け継がれてきた伝統や文化の違いに反映される人々の生活、特に食の文化には深く興味が湧いてきます。

今月は言わずと知れたる「桜餅」についてのお話を。。。

関西で「桜餅」と言えば「道明寺製」です。 道明寺粉つまり糒(ほしいい)を蒸して餡を包み、さらに桜の葉っぱでくるんだお菓子です。 糒の素はもち米で、これを洗って水に浸け、蒸し上げてから乾燥させて粉砕したものです。 こうした加工をすることによって長期の保存が可能となり、湯でもどしただけで食べることのできるとても重宝な食糧だった訳です。 元祖インスタント食品ですね。 

では何故、この糒を道明寺(粉)と呼ぶようになったのか? 道明寺とは大阪藤井寺にある尼寺の名前です。 菅原道真の叔母さんにあたる方が住職をしていたことで知られています。 道真が太宰府に左遷された後、この叔母様が太宰府へ向けてお供えしたご飯のおさがりで糒を作り、信者さん達に分け与えたところ「これを頂くと病気が治る」との評判が立ち、希望者が増えに増え、糒を作るようになったものが、そのままその名に残ったものと伝えられています。

対する関東の「桜餅」は、「長命寺桜餅」に代表されるように小麦粉を水で溶いた生地をクレープのように薄く焼き、餡を挟んで桜の葉で巻くスタイルのものですね。 生地を反物のように長細く焼き餡を巻くもの、焼いた生地を半分折にして餡を挟むもの、大き目の丸に焼いて餡を中央に置き香包みのように作るものなど、形はお店によって様々です。

こちらもまた長命寺というお寺の名が付きますが、向島にある長命寺の境内で先述の「桜餅」が最初に売り出された ことに由来する商品名ですね。 つまり関東スタイルの「桜餅」の元祖が「長命寺桜餅」ということになると思います。 江戸中期、八代将軍吉宗の命を受けて植えられた隅田川沿いの桜の木。 花の季節が終わったあとの葉を利用して生まれたのが、「長命寺桜餅」だと言われています。  その名残でしょうか、今だに一つの桜餅に三枚もの葉が贅沢に使われています。

ちなみに関西ではこの関東風の「桜餅」を販売しているお店が極端に少なく、和菓子通ではない関西人に「関東風桜餅」を説明するには少々時間がかかります。(笑) が、東京では関東風に並んで「道明寺製の桜餅」を多く見かけます。 生徒さんにお聞きしたところ、あくまでも「桜餅」は関東風の薄皮仕立てのものを指し、関西の「桜餅」は「道明寺」と呼ぶのだそうです。 例えば注文する際は「桜餅3個と道明寺2個 下さい」となるのだそうです。。。(笑)