和菓子のお教室をはじめさせて頂いて早や13年になります。
たくさんの美味しいお菓子、珍しいお菓子に出会いました。
そんなお菓子の思い出やエピソードを、少し… お話したいと思います。

 

◆ 2011年 5月  初かつを

『目には青葉、山ほととぎす、初がつを』  その昔… 江戸っ子が殊の外「初鰹」を珍重したのは「勝つ魚」の縁起を担いでの事と聞いています。 「めでたい」の「鯛」と同じですね。(笑) 初夏に目に映るもの、耳に聞こえるもの、そして食するものを並べただけの面白い句ですね…と以前にも書きました。 が、この季節には必ず頭に浮かび、テレビやラジオで誰かが発するこの句はスゴイですね。 私の個人的な好みを言うと「戻り鰹」の方が好き!  現代では秋の鰹の方が人気ですが、何につけても初物を喜び、先取りを意識する日本人の感覚は素敵です。

「初鰹」については、昨年もこの5月に書いています。 「初かつを」というより「外郎」に付いて書かせて頂きました。 久々に美濃忠さんの「初かつを」を取り寄せましたので… 改めて! 美濃忠さん「初かつを」の写真をアップしたいと思います。

                 

先月、とりあえず中止させて頂いた東京教室のお菓子が、この「初鰹」でした。 名古屋の老舗、美濃忠さんの有名な「初かつを」を真似たお菓子です。 美濃忠さんでは「葛を贅沢に使った蒸し羊羹」と書いておられます。 表面には魚の筋のように見える縞模様があり、何とも言えない柔らかさと上品な色が魅力の期間限定の棹物です。 表面だけではなく断面も… 糸でギザギザ引き切ると、魚の切り身のように見えるから不思議です。 親切にも、ちゃんと木綿糸も付いています。 

正直なところ、最初にこの「初かつを」を見た時に「鰹? 鮪のサクみたい…」と苦笑いしました。 多分、これは私だけではないことと思います。(笑) 名古屋の地で「初かつを」が生まれたのは、やはり尾張徳川家の影響なのでしょうか…。 鯛焼きや鯛の最中…  鰹サブレやうなぎパイも…? 魚の姿を模したお菓子はありますが、魚の切り身を連想させるお菓子はこの「初かつを」だけだと思います。 教室では美濃忠さんのようにお菓子の表面に縞模様を付けることなど出来ません。 教室で作るのは、食感と色のイメージだけで捉えた「葛外郎」です。

余談ですが、美濃忠さんでこの「初かつを」と双璧をなす看板商品に「上り羊羹」という、やはり期間限定の蒸し羊羹があります。 サイズは「初かつを」と同じで、いずれも大ぶりなのが嬉しいですね。 美濃忠さんのお菓子では他に胡桃の餡を和三盆でコーティングした「山宝果」が好きですね。。。