和菓子のお教室をはじめさせて頂いて早や12年になります。
たくさんの美味しいお菓子、珍しいお菓子に出会いました。
そんなお菓子の思い出やエピソードを、少し… お話したいと思います。

 

◆ 2008年 2月  未開紅 

“梅一輪一輪ほどの暖かさ” 
梅の便りが届くこの季節、梅をモチーフにしたお菓子や実際に梅の実、梅肉などを使ったお菓子がたくさんありますね。 凛としたその姿や千里にも届くというその香りは、歌にも数多く詠まれ、「松竹梅」「四君子(梅、竹、蘭、菊)」にも挙げれるように、絵画にも描かれることの多い植物ではないでしょうか。 また重なる事を嫌う茶席においても梅だけは例外で、席中で重なって登場することが許されるのです。 百花に先がけ咲く花は、春の到来を告げる特別な意味を持つ花なのかも知れません。

「 未開紅(みかいこう)」は梅の蕾を表したお菓子です。 紅白の「こなし」の生地を重ね合わせ、3〜4ミリの厚さにのばして正方形に切る。 その真ん中にこし餡をのせて四隅から持ち上げるように包み、中央に黄色い芯を飾って仕上げたものです。 学生のころ、何故こんなに濃く赤いお菓子を「未だ開かぬ紅」というのか不思議でした。 およそ梅の花とはほど遠い四角い形を何故「梅」と呼ぶのかわかりませんでした。  「みかいこう」という音の響きもどこか和菓子らしくない気がしていました。

例えば梅を表すお菓子の銘としては「此の花」「紅梅(寒紅梅)」「香梅」「こぼれ梅」「飛び梅」「窓の梅」「福梅」「ねじ梅」「東風」などがあります。 直接梅を用いたお菓子には山形の「のし梅」、ご存じ「水戸の梅」、一関の「田むらの梅」などがありますし、大宰府の「梅が枝餅」も忘れてはいけませんし、金沢の「花うさぎ」も形は可愛い梅の花ですね。 おそらく各地の梅の名所では、梅にちなんだ銘菓があることと思います。 そんな中で「未開紅」は、やはり文字にも形にも梅を主張するものが無いと思いませんか。(笑)

先述の通り一般的には「“梅の蕾”の意味」と解説される「未開紅」は、実は梅の種類の一つなのだそうです。 早咲きの八重の紅梅の一種だそうです。 ちゃんと「未開紅」とういう名の梅があった訳です。(苦笑) 紅白の重ね合わせは王朝以来の雛色目(かさねしきもく)の伝統に基づいた色調なのだそうです。 そう聞けばどこか気品漂う気がしてくるから不思議です。(笑)

四隅を持ち上げ包み込む形は、古い絵図帳に見られる「玉手箱」の形です。 紅色の四角い餅(求肥)生地の中央に餡玉や羊羹を置き、包むように真ん中に生地を集めたこの形です。 「玉手箱」を開く時の期待感とでも言いましょうか、その楽しみや喜びを、今まさに開こうとする梅の花に置き換えて、春を待ち望む心情に重ねたのだと理解できたのは、随分、後のことでした。

教室でも「こなし」の応用編で、この「未開紅」を行いましたが、二色を重ね合わせる時に間にどうしても空気が入り気泡が透けて見えたり、厚みが平均しなかったり、正方形にきちんと切ることが難しいようで、何処か「だらしない未開紅」になってしまいます。(笑)また、中餡と外側のこなし生地の大きさのバランスも大切で、中餡が小さいとグズグズの蕾が出来、逆に中餡が大きいと既に開いた(まぬけに口を開いた)梅になってしまいます。 “きりり”とした正方形が、“ふっくら”と膨らみ、「今!開かん!」とする力強さにも似た美しさを表現できなければ、このお菓子の意味は無いように思います。

和菓子のデザイン性と銘の面白さを教えてくれたお菓子の一つです。